「生活福祉資金貸付制度」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、簡単に言うと「国が低所得世帯にお金を貸す制度」のことですが、よく知らない方も多いでしょう。
ここでは、生活福祉資金貸付制度の利用条件や、申込み方法を見ていきます。
目次
生活福祉資金貸付制度って何?
「生活福祉資金貸付制度」は、誰でも利用できるという訳ではありません。
対象となる世帯など、生活福祉資金貸付制度の基本的な特徴を見ていきます。
生活福祉資金貸付制度=国からお金を借りること
「生活福祉資金貸付制度」とは、国が低所得世帯にお金を貸す公的なローンのことで、無利子(もしくは低金利)でお金を借りられます。
詳しくは後ほど説明しますが、「低所得」とみなされるには一定の基準があります。
自己申告で「低所得である」と申告しても、誰でも利用できる訳ではありません。
<関連サイト>:社会福祉協議会 生活福祉資金について
窓口は各市町村の社会福祉協議会
生活福祉資金貸付制度は、国(正確には厚生労働省)が行う公的融資制度ですが、実際に「窓口」の役割を果たしているのは、各都道府県や市町村の「社会福祉協議会」です。
社会福祉協議会の事務所のほとんどは、市町村・都道府県の庁舎内にあります。
そのため、「生活福祉資金貸付制度とは、市役所からお金を借りること」という認識を持っている方もいるようです。
しかし実際には、利用のために出向く場所は市役所であっても、国(厚生労働省)からお金を借りていることになります。
利用できるのは低所得者、高齢者、障害者の世帯
生活福祉資金貸付制度を利用できるのは、以下のような世帯に限られます。
・低所得者世帯
銀行・消費者金融のカードローン審査に通過することができないほど低所得な世帯
・高齢者世帯
65歳以上の高齢者がいる世帯
・障害者世帯
精神障害者保険福祉手帳、身体障害手帳、療育手帳を持つ人のいる世帯
<関連サイト>:厚生労働省 生活福祉資金貸付制度
「低所得」って、どのくらいの収入のこと?
上でも書いたとおり、低所得世帯であれば生活福祉資金貸付制度を利用することはできます。
しかし、ひと口に低所得と言っても、それがどの程度の収入のことであるかは、人によって感じ方が違う部分でもあります。
下の表は、東京都・愛知県・北海道の低所得の基準を示しています。
この金額以下の世帯収入(月額)の場合、低所得に分類されるという意味です。
見て分かるとおり、生活福祉資金貸付制度における低所得の定義は、利用者が住んでいる地域や世帯人数によって少し異なります。
全国で一律の条件に統一されている訳ではないので、利用前に自分の居住地域の条件を詳しく確認してみましょう。
低所得となる収入基準 (1級地居住の場合) |
1人世帯 | 2人世帯 | 3人世帯 |
---|---|---|---|
東京都社会福祉協議会 (月額) |
~19万1千円 | ~27万2千円 | ~33万5千円 |
愛知県社会福祉協議会 (月額) |
~14万5千円 | ~22万2千円 | ~27万6千円 |
北海道社会福祉協議会 (年収) |
~360万円 | ~420万円 | ~480万円 |
<関連記事>:【元銀行員が解説】パート・バイトのカードローンで注意すべき点
生活福祉資金貸付制度は、4種類ある
生活福祉資金貸付制度には、大きく分けて下記の4つの種類があります。
申し込みの際には、自分が「どのような目的でお金を借りたいのか」を考え、その目的に合う資金を借り入れることになります。
それぞれの内容を見ていきます。
1.総合支援資金
「総合支援資金」は、下記の目的でお金を使いたい場合に申し込むローンです。
・生活支援費
生活を建て直すまでに一時的に必要な生活費
・住宅入居費
敷金・礼金など住宅の契約に必要な初期費用
・一時生活再建費
就職・転職のために必要な技能や資格を習得するための経費、滞納している公共料金の立替費用、債務整理のための費用など
2.福祉資金
「福祉資金」は、下記の目的でお金を使いたい場合に申し込むローンです。
・福祉費
病気・ケガの治療に必要な経費や療養中の生活費、介護サービスを受けるための経費・介護サービスを受けている期間中の生活費、福祉器具の購入費用、仕事をするために必要な道具・備品の購入費用など
・緊急小口資金
災害などの際、臨時で必要となった少額の費用
3.教育支援資金
「教育支援資金」は、下記の目的でお金を使いたい場合に申し込むローンです。
・就学支援費
低所得世帯の子供が高校や大学、高専に入学するための費用
・教育支援費
低所得世帯の子供が高校や大学、高専に通学するための費用
<関連記事>:教育ローンと奨学金の違いは?お金を借りる時の注意点は?
4.不動産担保型生活資金
「不動産担保型生活資金」は、下記の目的でお金を使いたい場合に申し込むローンです。
・不動産担保型生活資金
65歳以上の高齢者のいる低所得世帯の生活資金(自宅を担保とすることが貸付の条件)
・要保護世帯向け不動産担保型生活資金
65歳以上の高齢者がおり、なおかつ生活保護を受給している世帯の生活資金(自宅を担保とすることが貸付の条件)
<外部関連サイト>:【元銀行員が教える!】お金がない時の乗り切り方は?
生活福祉資金貸付制度で借りられる金額と金利はいくら?
上では、4種類の生活福祉資金貸付制度について見てきました。
ここでは、それぞれの生活福祉資金の「融資上限額」と「金利」を詳しく見ていきます。
なお、生活福祉資金貸付制度の金利は無利子か、最大で年率3%です。
ほとんどの場合、連帯保証人がいれば無利子で融資が受けられます(いなくても借入は可能です)。
また、「緊急小口資金」と「教育支援資金」に関しては、連帯保証人がいなくても無利子となります。
連帯保証人は、利用者と同じ都道府県内に居住していること、利用者とは生計が別であることが原則条件となっています。
1.総合支援資金の場合
・融資上限額
総合支援資金の融資上限額は下記のとおりです。
「住宅入居費」・「一時生活再建費」に関しては、世帯人数によって融資上限額が変わることはありません。
「生活支援費」に関しては、世帯人数によって融資上限額が変わります。
融資上限額 | |
---|---|
生活支援費 | ・世帯人数が1人の場合:月15万円以内 ・世帯人数が2人以上の場合:月20万円以内 |
住宅入居費 | 40万円以内 |
一時生活再建費 | 60万円以内 |
・金利
表を見てわかるとおり、総合支援資金の金利は保証人がある場合は無利子、保証人なしの場合は年率1.5%です。
金利 | 返済期間 | |
---|---|---|
生活支援費 | 保証人あり:無利子 保証人なし:年率1.5% |
10年 |
住宅入居費 | 保証人あり:無利子 保証人なし:年率1.5% |
10年 |
一時生活再建費 | 保証人あり:無利子 保証人なし:年率1.5% |
10年 |
2.福祉資金の場合
・融資上限額
福祉資金の融資上限額は下記のとおりです。
「福祉費」は条件により最大で580万円までの融資が受けられますが、「緊急小口資金」は“小口”という名前のとおり、最大で10万円までの融資しか受けられません。
融資上限額 | |
---|---|
福祉費 | 580万円以内 |
緊急小口資金 | 10万円以内 |
・金利
「福祉費」の金利は保証人がいる場合は無利子、保証人なしの場合は年率1.5%です。
「緊急小口資金」に関しては、保証人の有無を問わず無金利となっています。
金利 | 返済期間 | |
---|---|---|
福祉費 | 保証人あり:無利子 保証人なし:年率1.5% |
20年 |
緊急小口資金 | 無利子 | 12ヶ月 |
3.教育支援資金の場合
・融資上限額
教育支援資金の融資上限額は下記のとおりです。
学校に入学するための費用として借り入れる「就学支援費」に関しては、どういった形態の学校へ入学しても融資上限額が50万円までと決まっています。
また、学校へ通学するための費用として借り入れる「教育支援費」に関しては、進学先が短大か4年制大学かなど、学校の種類によって融資上限額が変わってきます。
なお、各家庭の状況により、必要だと判断された場合は下記の融資上限額の1.5倍まで融資額を増額してもらえるケースもあります。
融資上限額 | |
---|---|
就学支援費 | 50万円以内 |
教育支援費 | ・高校:月3万5千円以内 ・短大・高専:月6万円以内 ・大学:月6万5千円以内 (状況により上記限度額の1.5倍まで 貸付の増額が認められる場合もあり) |
・金利
表を見てわかるとおり、「教育支援資金」の金利は保証人の有無を問わず無利子です。
金利 | 返済期間 | |
---|---|---|
就学支援費 | 無利子 | 20年 |
教育支援費 | 無利子 | 20年 |
<関連記事>:学生ローンでお金を借りるのに注意したいことは?
4.不動産担保型生活資金の場合
・融資上限額
不動産担保型生活資金の融資上限額は下記のとおりです。
「不動産担保型生活資金」、「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」のどちらの融資を受けるにしても、自己が所有する土地・建物の評価額が融資額の決定に大きく関わってきます。
融資上限額 | |
---|---|
不動産担保型生活資金 | 月30万円以内、もしくは土地評価額の70%程度 |
要保護世帯向け 不動産担保型生活資金 |
生活扶助額(生活保護額)の1.5倍以内、もしくは土地・建物の評価額の70%程度 |
・金利
「不動産担保型生活資金」の金利は年率3%、もしくは「プライムレート」のうち、金利が低い方が採用される仕組みになっています。
※プライムレート、最低限度となる金利(最優遇金利)のことです。
金利 | 返済期間 | |
---|---|---|
不動産担保型生活資金 | 年率3%もしくは長期プライムレートのうち利率の低い方を採用 | 契約終了後3ヶ月以内 |
要保護世帯向け 不動産担保型生活資金 |
年率3%もしくは長期プライムレートのうち利率の低い方を採用 | 契約終了後3ヶ月以内 |
<外部の関連サイト>:厚生労働省 生活福祉資金貸付条件等一覧
国からお金を借りる、申込み方法と必要書類は?
ここまで、生活福祉資金貸付制度の特徴を見てきました。
ここでは実際に、生活福祉資金貸付制度を利用する際に必要な書類と申込方法を見ていきます。
生活福祉資金貸付制度の必要書類
一般的なカードローンなどとは違い、生活福祉資金貸付制度の申し込みには、下記のようにたくさんの書類が必要です。
・住民票など(世帯状況がわかる書類)
・運転免許証など(本人確認書類)
・給与明細、源泉徴収票、通帳のコピー
・税金の納付状況がわかる書類
・債務状況がわかる書類
・(連帯保証人がいる場合)連帯保証人の給与明細、源泉徴収票、通帳のコピー
・その他、社会福祉協議会が指定する書類
利用する生活福祉資金によっては、ここに記載のない書類の提示を追加で求められる可能性もあります。
書類が不足していると申し込みができなくなってしまうため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
総合支援資金、緊急小口資金の申し込み方法
「総合支援資金」・「緊急小口資金」の借入を希望する場合は、生活困窮者自立支援制度における自立相談支援事業の利用が、貸付条件となります。
ただし、既に就職が内定している場合などは除きます。
そのため、貸付制度を利用するためには、まず市町村などに設置された自立支援のための相談窓口で、現在の自分の状況を相談する必要があります。
自立支援のための相談窓口というのは、生活に困っている人の相談を受け、一緒に解決策を考えたり、提案してくれる場所です。
職探しや家探し、子供の教育や家計の立て直しなどの相談を総合的に受けることで問題を解決し、生活に困窮している状態から抜け出すための手助けをしてくれます。
相談窓口の設置場所は自治体によって異なる場合があるので、利用したい方はお住まいの都道府県や市町村の役所に問い合わせてください。
<関連サイト>:生活困窮者自立支援制度について | 政府広報オンライン
上記の相談窓口を利用したうえで、総合支援資金・緊急小口資金が利用できる可能性があると判断された場合は、相談窓口を通じて居住地域の社会福祉協議会へ利用申請を行います。
相談窓口を通じて申込者が提出した書類をもとに、市区町村社会福祉協議会・都道府県社会福祉協議会において、申込内容の確認と審査が行われます。
審査に通過すると、「貸付決定」となります。
申し込みを行った社会福祉協議会に「借用書」を提出すると貸付金が交付される流れとなります。
<関連サイト>:厚生労働省 生活困窮者自立支援制度
福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金の申し込み方法
福祉費、教育支援資金、不動産担保型生活資金の借入れを希望する場合は、自分が住んでいる地域の社会福祉協議会に相談のうえ申込みます。
申込者が提出した書類をもとに、市区町村社会福祉協議会・都道府県社会福祉協議会において申込内容の確認と審査が行われます。
審査に通過すると、「貸付決定」となります。
申し込みを行った社会福祉協議会に「借用書」を提出すると貸付金が交付される流れとなります。
生活福祉資金貸付制度、利用前のチェックポイント
ここまで、生活福祉資金貸付制度の概要や申込み方などをまとめて見てきました。
最後に、制度を利用する前に確認しておきたいポイントを見ていきます。
社会福祉協議会の場所を確認しておく
生活福祉資金貸付制度は、必ず自分が居住している都市の市役所などから申し込みをする必要があります。
そのため、まずは自分が利用する社会福祉協議会がどこにあるかを確認しておきましょう。
インターネットで情報を探す場合は、自分が住んでいる都道府県名+社会福祉協議会(例:東京 社会福祉協議会)と入力すると、その地域にある社会福祉協議会の詳細情報を見ることができます。
また、不安なことがあれば事前に電話をかけて相談してみたり、必要書類を確認しておくと申込手続きがよりスムーズに進むでしょう。
必ず限度額いっぱいに借りられる訳ではない
先で、4つの生活福祉資金の融資上限額を記載しました。
しかし、融資上限額はあくまでも「さまざまな条件が揃って最大額まで借りられた場合の例」です。
申し込み者全員が、必ずめいっぱいの額を借りられる訳ではありませんので、覚えておきましょう。
生活保護受給中は原則として「借入NG」
「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」の融資上限額について記載した項目で、“最大融資額は生活扶助額(生活保護額)の1.5倍以内”という説明をしました。
しかし、これは特例として認められた場合に限られます。
原則として、生活保護受給期間中は生活福祉資金貸付制度を利用することができません。
・銀行、消費者金融のカードローンを利用している
・失業保険の受給資格がある
・生活保護を受給している
など、「生活福祉資金貸付制度以外にお金が入る(借りられる)アテ」がある場合には、原則として借り入れはできません。
返済の見込みがなければ借りられない
生活福祉資金貸付制度は、銀行や消費者金融の審査にも通らないほど低所得な人を対象とした融資です。
しかし、いくら低所得な人を対象にしているとはいえ、“貸したお金は返してもらう前提で”融資を行うという点では、一般のカードローンなどと変わりません。
そのため、無職や多重債務の状態、借金の返済にあてるお金がまったく無いほど低所得であるなど、「返済の見込みが無い人」は借りることができません。
低金利が目当ての利用は不可
生活福祉資金貸付制度は低所得世帯のための融資制度であり、地域ごとに「低所得」とされる水準が決まっていることを先でも書きました。
そのため、決められた水準以上の収入がありながら、「低金利でお金を借りたいから」という理由で生活福祉資金貸付制度を利用することはできません。
生活福祉資金貸付制度で定められた水準以上の収入がある場合は、銀行や消費者金融のカードローンを利用できる状況にあるとみなされます。
そういった場合、生活福祉資金貸付制度を利用することはできませんので、カードローンの利用を検討するなど、他の借り入れ方法を選びましょう。
- 「生活福祉資金貸付制度」とは、国が低所得世帯にお金を貸す制度
- 世帯人数、居住地域によって「低所得」とされる基準が異なる
- 生活福祉資金は用途別に4種類に分けられる
- 福祉費、教育支援資金、不動産担保型生活資金の申し込みは社会福祉協議会へ
- 総合支援資金、緊急小口資金の申し込みは自立支援機関へ
- 無職・多重債務・極端な低収入の状態では借り入れはできない