金融庁が銀行カードローンを規制すべきでない3つの理由





金融庁が、銀行カードローンの規制強化を視野に入れ始めたようです。その背景にあるのは、銀行カードローンの利用者拡大です。

銀行のカードローン、金融庁が実態調査 過剰融資を懸念
金融庁が消費者ローンを巡る銀行融資を問題視している。2010年に施行した改正貸金業法で消費者金融会社の貸出総額に制限がかかったため、消費者金融で借金を重ねる「多重債務者」はピーク時の5%まで減少。一方、貸し出し規制のない銀行によるカードローンなどが増加。金融庁は銀行による過剰な貸し出しや過度な宣伝がないか調査を始めた。

自己破産、13年ぶり増加=銀行のカードローン急拡大-16年
個人の自己破産の申請が2016年に前年比1.2%増の6万4637件となり、13年ぶりに増加したことが10日、最高裁の統計(速報値)で明らかになった。自己破産はこれまで、消費者金融などへの規制強化で減少が続いてきた。増加に転じた背景には、無担保で個人に融資する銀行のカードローン事業の急拡大があるとみられる。

銀行カードローンを金融庁が問題視、多重債務の新たな温床
「金融庁として、銀行カードローンの在り方についてこれから各行と議論していきたい」。1月中旬、銀行首脳との会合の場において、銀行の監督官庁である金融庁の幹部はそう宣言した。


2010年の貸金業法の改正により貸金業者(消費者金融・クレジットカード・信販会社など)に対する規制が強化され、その利用が大きく減少しました。代わって浮上してきたのが銀行カードローンです。

上の記事にもある通り、銀行カードローンの残高が拡大し続けており、2016年に自己破産者は13年ぶりに増加に転じました

利用者保護の観点から、昨年11月には日本弁護士連合会が意見書を金融庁に提出しました。金融庁も、昨年末から調査を開始しています。(以下で詳しく見ますが)風向き次第では、銀行カードローンに対して規制強化される可能性が十分あります


多重債務者を増やさないためにも、銀行カードローンに対して規制強化をするのは一見正しいことのように見えます。ですが、それが本当に正しいことなのか考えるのが、今回のテーマです。

結論から言うと、銀行カードローンに規制を掛けるべきでない、というのが私の立場です。なぜそう思うのか、以下ではその根拠を説明します。


1.多重債務者の数は減り続けている

まず、貸金業者による無担保ローン(消費者金融、クレジットカード含む)と、銀行カードローンの推移を確認しましょう。


金融庁・貸金業関係資料日本銀行統計から作成)

無担保ローンが大きく減少している一方、銀行カードローンが増加傾向にあります。ただこうして見ると、銀行カードローンの利用残高が増えているといっても、無担保ローンのピークに較べて大した金額でないことが分かります。

2016年の銀行カードローンの速報値(54,377億円)にしても、無担保ローンのピーク(2005年、176,399億円)の1/3以下です。


次に、多重債務者の推移を確認しましょう。以下は、5件以上の借り入れがある多重債務者の推移です。



以下は、3件の借り入れがある多重債務者の推移です。



日本信用情報機構、2009年以前は多重債務者対策本部(首相官邸)から作成)

3件以上の借り入れがある人は、まだそれなりにいますが、それでも多重債務者が減少傾向にあることがハッキリ分かります。

最後に、時事通信に出ていた自己破産者(個人)の推移です。




裁判所の司法統計から作成)

2016年にわずかに上昇に転じているのは確認できますが(2015年:63,856人、2016年:64,637人)、それでも低水準です。2003年の24万人に較べると、1/4弱の水準です。

以上をまとめると、こんな感じです。

  • 銀行カードローンが伸びてると言っても、過去の無担保ローンに較べれば全然低い水準
  • 多重債務者は、いまだに減り続けている
  • 自己破産者が増加したといっても、本当にわずか。以前より低水準

もちろん、多重債務者にしろ自己破産者にしろ、少ない方がいいに決まっています。ただ、社会問題として大きく取り上げるほどの水準かと言えば、疑問です。


いやいや、ちょっと待て!「多重債務者にしろ自己破産者にしろ、少ない方がいい」のだったら、単純に銀行カードローンを規制すればいいだろ!銀行なんて、どうせ儲かってるんだし。


こんな風に考える人がいるかもしれません。ですが、ちょっと待ってほしいのです。銀行が儲かっていれば、そういう規制もアリなんでしょうが、実は今、銀行経営に非常な逆風が吹いてるのです。


2.もはや銀行は「構造不況産業」

銀行経営をとりまく「三重苦」

銀行業は規制に守られた収益産業、と思っている人もいるかもしれません。ですが今や銀行は、「構造不況産業」に陥っています

その大きな要因になっているのが、「人口減による顧客基盤の縮小」、「量的緩和・マイナス金利」、「金融庁による手数料監視」の三重苦です。



「人口減による顧客基盤の縮小」は何となく分かりますが、「量的緩和・マイナス金利」と「金融庁による手数料監視」って、どういうことなのでしょうか?

異次元緩和・マイナス金利の衝撃

日本銀行が2013年4月に量的緩和(=「異次元緩和」)を進める過程で、金融機関の収益環境が大幅に悪化しました。特に影響が大きかったのが、2016年2月のマイナス金利導入です。これにより、日本の長期金利が大きく低下しました。


以下は、日本の十年国債の金利推移です。低下傾向であることが確認できます。


(出所:Investing.com 日本


でも、金利の低下と銀行経営って関係あるの?

こんな風に思う人もいるかもしれません。金利が低下すると、以下のような影響が出てきます。

  • 貸出金利の低下を招く
  • 魅力のある(金利のある)金融商品が作りづらくなる
  • 資産運用が難しくなる

中でも影響が大きいのが貸出金利の低下です。この点について、もう少し詳しく見ていきましょう。

カネ余り+金利低下のダブルパンチ

昨年の5月に、こんなニュースが駆け巡りました。

ついに銀行界で貸出金利0%、もはや融資ではない
それは、独立行政法人である石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の入札による資金調達で起きた。JOGMECは借入額5178億円、借入期間1年間の資金調達を入札で実施。4月13日にその結果が発表された。
応募総額は約2.8兆円、応札倍率は5.5倍となったが、驚くべきはその落札貸出金利だ。最高でも0.00001%、平均はなんと0.00000%(小数第6位以下切り捨て)だったのだ。


まぁ、びっくりする位の低金利ですよね。ここまで極端な例は少ないですが、マイナス金利に加えてカネ余りの状況のため、銀行間で「金利の叩き合い」が始まりました。


昔は企業がお願いして銀行にお金を借りていたのに、今では銀行がお願いしてお金を借りてもらっている状況です。



銀行にとって悩ましいのは、貸出収益(=資金利益)が収益の7割を占めていることです。ですが、マイナス金利に加えて「金利競争」のために、銀行の貸出金利はドンドン削られています。地方銀行ほど、この傾向が強いです。




(出所:週刊ダイヤモンド2016年9月3日号

こうした現状に対して、金融庁は「10年後も生き残れるビジネスモデル」を立案するよう銀行に迫っていました。銀行自身も、金利収入が先細りの現状を認識しており、新たな収益の柱を模索していました。

そして、その大きな一つが手数料ビジネスでした。ところが、当の金融庁が銀行の手数料ビジネスに対して、厳しい目を向けているのです。

利用者目線の監視を強める金融庁

金融庁が、銀行の手数料ビジネスに対して監視を強めています。2016年には、銀行窓口で販売する保険の手数料を開示するよう迫り、各銀行は開示に踏み切りました。

変額年金保険など銀行の窓口で販売される貯蓄性の高い保険商品の手数料について、大手銀行5グループが来(2017)年初めにも公表する方針を打ち出した。手数料引き下げの引き金になると期待できるが、なぜ今、手数料公表なのか。背景には、金融庁の意向がある。はたしてその狙いとは?


これ以外にも、投資信託の回転売買やラップ口座(資産運用一任)、投資信託の手数料に対して金融庁は監視を強化しています。


これだけ見ると、利用者目線に立った立派な施策です。ただし(当然ですが)、こうした金融庁の監視が強まるほど、銀行の収益機会が奪われていきます。銀行が、本業の貸出収益で儲かっていれば問題もないでしょう。


ですが先ほども書いた通り、量的緩和やマイナス金利のせいで、銀行収益が先細りです。そこで資金収益(=金利収入)以外でビジネスチャンスを求めて動いてた銀行に対して、今度は金融庁が手足を縛りに来ています


下記は、銀行業界の資金収益と手数料収益の推移です。貸出利益が減る一方で、手数料収益が意外に増えていないことが確認できます。



(出所:週刊ダイヤモンド2016年9月3日号

ここにきて、カードローンへも監視強化?

長々説明しましたが、要は銀行が八方ふさがりな状況です。そこに来て、最後の収益機会として注目が集まったのがカードローンです。銀行カードローンの提示金利は、年利2~15%でして、法人の貸出に較べて圧倒的に有利です(実際には保証会社への保険料も掛かるため、見た目ほど収益率は高くありませんが)。

銀行にとっての「ラストリゾート」として、力を入れている最中でした。

ところが、冒頭に紹介したように、金融庁が監視を強めようとしているのです。これがどれほど「無理ゲー」なのか、以下で図にしました。



金融庁の「ジャイアン」ぶりがよく分かると思います。


銀行の経営が苦しいのは分かったよ。でもさ、銀行の経営がどれだけ苦しくなっても、潰れても、俺たちには関係ないし。金融庁は、規制をガンガン進めればいいじゃん


こんな風に考える人もいるかもしれません。ですが、銀行の経営が苦しくなると、それが国民にも相応に跳ね返ってくるのです。


3.結局、国民に負担が返ってくるだけ

銀行経営が非常に苦しい状況になるなか、銀行が最後の収益機会として強化しているのがカードローンと説明しました。では仮に、金融庁がこのカードローンに対しても規制を強化したら、どうなるでしょうか?


ここからは僕の想像ですが、銀行の経営がますます苦しくなったら、口座手数料を値上げするなど、運用や借り入れを利用しない一般利用者にまで負担を課してくる可能性が高いと見ています。


といいますか、すでにその動きが始まっています

三井住友銀行

三井住友銀行は2016年10月21日から、下記のように手数料を変更しました。

<本支店ATMにて、キャッシュカードで出金する際の時間外手数料(平日)>

変更前 ご利用口座のお取引時点での預金残高が10万円以上の場合、無料
変更後 ご利用口座の預金残高にかかわらず、108円(消費税込/回)がかかります

(参考):手数料一部改訂のお知らせ

一定の条件を満たしていれば手数料が無料になるようですが、事実上の値上げで間違いありません。

みずほ銀行

みずほ銀行は、時間外手数料が無料にある、「みずほマイレージクラブ」の取引判定が厳しくなりました(リリースは2017年1月4日)。こちらも、ネットバンキングへの登録が必要になるなど、条件が厳しくなっています。

変更前 みずほマイレージクラブカードの毎月の利用 または 一定金額以上の預金
変更後 インターネットバンキングへの登録ほか

(参考):みずほマイレージクラブ「うれしい特典」の「お取引条件」の変更

ゆうちょ銀行

最後は、ゆうちょ銀行です。2016年10月1日からATMによる送金手数料の値上げしました(リリース2016/8/17)。

変更前 無料
※ 取扱期間:2016年9月30日まで
変更後 月3回まで:無料
月4回目以降:123円
※ 取扱期間:2018年9月30日まで

参考:ATMを利用した電信振替の料金を変更いたします

口座手数料の値上げに対する反発は大きいけど・・

ご存じの通り、口座手数料に対する利用者の不満は大きいです。自分のカネを使うのに手数料が掛かるのですから、そうした不満は当然です。ですが、銀行の経営がいよいよ苦しくなったら、こうした口座手数料に一層手を付けていくことになるでしょう。


つまり、国がマイナス金利で銀行の経営を圧迫して、手数料ビジネスで銀行への監視を強めて、さらにカードローンを規制したとします。すると、銀行は口座手数料を上げる形で国民に負担を求める形になります。そうすると結局のところ、損をするのは銀行の一般利用者(=国民)ということになります。


これは、ずいぶん変な話です。こうした点も考えると、多重債務者がまだ減り続けている中で、銀行カードローンに規制を掛けるのは大いに疑問です。どうしてもやるなら、まずマイナス金利を止めるのが先ではないでしょうか?


とりあえず、銀行業界の自主規制に任せよう

こう書くと、「多重債務者の問題を放置しろってこと?」と非難する人もいるかもしれません。ただ繰り返しになりますが、多重債務者にしろ自己破産者にしろ、過去の社会問題になるほどの水準ではありません

もちろん、そうはいっても対策は必要です。この点、全国銀行協会が対応策の検討に入った模様です。

カードローン、銀行に厳格審査促す
全国銀行協会は3月にもカードローン審査の厳格化に向けた対応策を打ち出す。自主的に利用者の年収や他社からの借り入れ状況をより正確に把握するよう促す。銀行による過剰融資が、多重債務問題につながりかねないとの懸念に対応する。貸金業者の融資減を補う形で残高を伸ばしてきた銀行カードローンに、ブレーキがかかる可能性もある。


この記事の執筆時点(2017年2月下旬)では具体的な話は分かりませんが、3月中には詳細がハッキリするでしょう。

ただ、こうして銀行業界で対策をする以上、金融庁はこれ以上、カードローンに対して監視や規制を強化すべきではない。それをすると、却って国民に負担が返ってくる、というのが僕の意見です。

(まとめ)
  • 銀行カードローンの利用者が増加傾向にあり、批判の声が多くなってきた
  • 多重債務者、自己破産者ともに減少傾向にある
  • 日銀の量的緩和・マイナス金利により、銀行経営は非常に厳しくなった
  • 金融庁の監視強化により、銀行の手数料ビジネスが厳しくなっている
  • 銀行の経営が苦しくなれば、結局国民に負担が返ってくる
  • 金融庁は、銀行に対してカードローンの規制をすべきではない
  • つーか、日銀はマイナス金利を早くやめろ!

<執筆者>
もぐお。嫌いな食べ物:ワカメ。好きなマンガ:「センゴク」。最近ハマっていること:糖質制限ダイエット、「やれたかも委員会」。元銀行員。

<運営サイト>
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